菅研究室で現在進めているプロジェクトの紹介です。競争的資金の獲得状況は、日本の研究.comまたは科研費DBを参照してください。
The following is an introduction to the projects currently underway in Kan Lab. For the status of research funding, please refer to 日本の研究.com or KAKENHI DB.

細菌がつくる運動の微小デバイス下での再現検証(2022-)

Microchannel mimicking critical region

本研究は、S専攻の中根先生との共同研究として実施しています。昆虫の腸の中における細菌の行動を再現性良く調べることは、簡単ではありません。どのようなサイズの腸管の中で、特徴的な行動が発現するのか。腸管の中はどんな環境のときに、活発に行動が生まれるのか。こうした、定量的な行動解析をおこなうために、この研究では人工的に最近の行動環境、例えば細菌のランニングトラックを構築し、詳細に行動解析を行います。細菌のサイズは1マイクロメートル程度で非常に微細ですので、ランニングトラックを作るために、菅研究室のコア技術であるMEMS半導体加工技術を利用します。図に示すように、幅1マイクロメートルほどの長い線をフォトレジストをリソグラフィ技術で整形します。その上に、樹脂を流して長い線を型取りします。最終的に、樹脂構造をスライドガラスの上に配置することで、細菌のランニングトラックとして機能する、マイクロ流路を形成することができます。本研究では、この方法で様々な機能を持つ流路構造を形成し、細菌の様々な運動・行動を解析してゆきます。

本研究は、科学研究費補助金 学術変革(B)のもと、実施しています。
科研費学術変革(B)「微生物が動く意味」サイト
電気通信大学中根研究室

切り紙メタマテリアルの新規構造探索(2021-)

Kirigami Spiral

切り紙構造を利用することで、光学的な特性を大幅に変調可能なMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)光学メタマテリアルの構成方法について研究を進めています。光学メタマテリアルにおいて、従来からメタアトム構造自体の形状を変化したり、メタアトムを配置したフレキシブル基板を引っ張ることで間隔を変化する方法が研究されていますが、変形の自由度に限界がありました。そこで、2次元平面に切り込みを入れて、立体構造を自由度高く作ることができる切り紙構造を利用し、可変自由度が飛躍的に高い光学メタマテリアルの実現に取り組みます。

本研究は、科学研究費補助金 基盤研究(B)(代表)で実施しています。早稲田大学岩瀬研究室慶応大学高橋研究室東京大学神田助教との共同研究です。

Degradableメタマテリアルを利用した環境モニタセンサプローブ(2021-)

Metamaterial Cube

人工衛星やドローンで得たデータで耕作地を撮影し、AIで画像を解析することで作物の生育や土壌の状況を調べる、AI農業が最近注目されています。しかし、単純に画像を取るだけでは、土壌のpHなど、可視化できない重要な物理量を取りこぼしてしまいます。

そこで、アンテナを持つ、サイコロ状の小型メタマテリアルプローブのを研究を進めています。畑に素子を散布して利用する形態を想定しています。そこに電波を照射すると、アンテナにより電磁波が反射されます。しかし、プローブが土壌の組成に応じて、劣化するように作っていれば、劣化のサインを反射の強弱から知ることができるので、結果として不可視な土壌の物理量も計測可能となると見込まれます。最終的に地面に溶けて無害になるようにして、SDGsも考慮した技術を作ろうとしています。

本研究は、NEDO官民による若手研究者発掘支援事業にて、慶応大学尾上研究室と共同で実施しています。

半導体化学量センサによるウイルスセンシング(2020-)

SPR sensor

本研究室で有する半導体表面プラズモン共鳴(SPR)センサの技術をキー技術として、小型のウイルスセンサを作り、コロナウイルスのリアルタイム検出ができるセンサの開発を目指しています。小型センサを人の行動環境中に多数配置すれば、感染を経ずに空気中のウイルスをその場リアルタイムで検知できるので、ウイルスの確認に要する時間の圧倒的短縮、空間分解能の飛躍的増大というイノベーションが生まれると考えています。

本研究課題に関連して、科学研究費補助金挑戦的研究(開拓)と、JST A-STEP産学共同(育成型)を推進しています。本テーマは、本学S専攻の瀧研究室早稲田大学岩瀬研究室と連携して研究を進めています。

健康モニタのための血中成分計測用赤外線センサの研究(2019-)

SPR photodetector

血中には、グルコースや脂質など、人の健康の指標となる物質が含まれています。赤外光で血液などの吸収を計測すると、非侵襲でこれらの濃度を計測できる可能性があります。得られたデータを使えば、個人の生活習慣の変容を促すようなシステムを実現できます。本研究では、こうした目的のために、研究室で開発した赤外線ディテクタを利用して、血液中の脂質を高精度で計測可能なセンサを研究開発しています。

この研究は、NEDO委託事業「IoT社会実現のための超微小量センシング技術開発」の下で、一般財団法人マイクロマシンセンター株式会社タニタ公立大学法人富山県立大学、国立大学法人電気通信大学の産学連携チームで「血中成分の非侵襲連続超高感度計測デバイスおよび行動変容促進システムの研究開発」という課題名で進行中です。

小型スペクトラルイメージャの研究(2018-)

MEMS spectrometer

ロボットの視覚認識力を飛躍的に向上させるために、小型なハイパースペクトラルイメージング装置を実現可能な、小型MEMS分光器の研究を進めています。Googleカーや農業用ドローンなどは、周辺空間のスペクトル(色あいの波長ごとの強弱)を調べるために、ハイパースペクトラルイメージャと呼ばれる装置を搭載しています。これは、カメラの各画素ごとにスペクトル取得可能な優れた装置ですが、きわめて高価で大型であり、ロボットへの搭載が難しいのがネックでした。

そこで、小型化に強みのある、独自のMEMS分光素子を研究開発し、従来の分光器のような大型の筐体を必要とせずに高精度分光計測を実現することを目指しています。

本研究の技術に関して、イムラ・ジャパン(株)と共同研究を進めています。

ディスプレイ用薄型反射防止フィルム(2018-)

Anti Reflection film

本研究プロジェクトでは、非常に薄型でフレキシブルな、可視光の反射防止フィルムの研究を進めています。近年、OLED(Organic Light Emitting Diode)ディスプレイなど、自発光材料を用いた新たなディスプレイが実用フェーズに入っています。これらの材料は曲面上に成膜できるので、曲面型やフレキシブルなディスプレイがキラーアプリとして見込まれています。そうしたディスプレイの実現には、外光の反射を抑制する反射抑制フィルタを表面に備えなくてはいけませんが、従来は厚型の物しかなく、フィルタのフレキシブル薄型化が重要となっていました。

本研究プロジェクトでは、薄膜なフレキシブルな反射防止フィルムを研究開発しています。薄膜として、内部にナノサイズのキラル金属構造アレイ(キラルメタマテリアル)を封入する独自構造を用いる点がポイントです。この構造が左右、どちらの円偏光(光の偏光方向の一種)成分を選択的に吸収し、もう一方の円偏光成分を透過する特性を持つことを計算で見出しており、この特性の実験的実証を目指しています。